☆☆ 腰痛・ぎっくり腰の鍼灸治療 ☆☆

「咳をしただけなのに、急に腰が痛くなって・・・」はじめてぎっくり腰になった患者さんは、よくこんな表現をします。他にも、食べ過ぎた後に、腰が急に痛くなった・・・とかいう表現を耳にします。

確かに突然、腰と関係ない様なことがきっかけとなり、痛みが襲ってきたのですが・・・よく考えてみましょう。私たちの体は、日常の何でもない動作で、突然激痛が走るようにできているのか?そんなわけはありません。よくよく話を聴くと普段から腰に不安感や違和感を感じていたという人がほとんどです。何らかの前兆やサインはあったものの日々の忙しさに追われかえりみる余裕すら無かったという人が多いようです。

肩でも腰でも、疲労が溜まってガチガチに凝り固まっているのに、自覚がないという人はいくらでもいます。そしてこういう人たちが、ある日突然ぎっくり腰になったり寝違えたりするのです。肩や腰は、硬直して少しの余裕もない状態ですから、本当に何でもない動作でギクッとやってしまうのです。

西洋ではぎっくり腰のことを魔女の一撃というそうですが、これもなかなか的を射たネーミングですよね。突然発症する急性の腰痛は古今東西かわらないのでしょう。腰痛は二足歩行を獲得した人類の共通症状なのです。


さて、ぎっくり腰に関わらず、腰痛の原因は様々で、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄、腰椎分離症、腰椎すべり症、筋筋膜性腰痛、それらが複合したケースや原因の特定がしづらい腰痛も珍しくありません。


Aさん(女性60代)は、慢性の再発性腰痛とぎっくり腰の症状を訴えて来院されました。鍼治療を受けるのは、初めてということ。30代にはじめてぎっくり腰をやって以来、再発する腰痛に悩まされてきたのです。趣味の乗馬を長年続けていることも腰痛の原因になっているのだろうと自分でも感じています。接骨院でマッサージを度々受けていたが、なかなか腰痛からは解放されず、改善と増悪を繰り返している状態。家族の介護も担っており、腰痛とは付き合っていくしかないんだろう・・・とあきらめていました。そんな折り、咳こんだことをきっかけにして、腰痛が悪化してしまいました。歩くのもままならない程です。


痛みは、腰椎から骨盤への移行部、仙腸関節、整形外科(MRI)では、腰椎4番、5番間の椎間板にヘルニアを指摘されているが、経過観察しましょう・・・と言われている。


骨盤は土台、背骨は柱の構造をイメージして下さい。もともと脊柱は生理的に緩やかなS字状のカーブを描くのです。Aさんの場合、うつ伏せになると、あきらかに右の背中が盛り上がっています。腰の疲労が慢性化し、腰椎へ負担が加わり続ければ、クッションの役目をしている椎間板はやがて破綻しヘルニアとなります。仙骨と寛骨で構成される骨盤では、接合部の仙腸関節に負担が加わり、アライメント(整合性)が崩れ仙腸関節性の腰痛となります。おそらく、そのような病態でしょう。それが慢性化し、再発を繰り返し、長期に渡るのですから、病態はもう少し複雑になっているのでしょう。


 このような場合は、通常の鍼治療(アウターマッスルへのアプローチ)では、なかなか効果が出せないことが多いのですが、Aさんは初めての鍼治療ということもあり、できるだけ痛みの少ないはりきゅう治療から開始しました。それでも治らない場合は、大腰筋へのアプローチが必要となってきます。大腰筋とは、腰の深部筋で腰椎の前の方に付いています。腰椎から骨盤を通過し大腿骨へ付く筋肉で、役割としては太ももを上げる筋肉です。陳旧性(慢性)の腰痛では、必ず悪くなっています。余談ですが、柔らかくて上等なお肉であるヒレ肉が、大腰筋なのです。ただし、四足歩行の動物と二足歩行の人間とでは大腰筋の役割がかなり違うのですが。


触診するには、鼠径部で少し触るか、腹筋を緩めておいて、お腹の脇から内蔵を避けて触る必要があります。要するに、まともに触れないのです。この筋に唯一アプローチできるのが鍼ということになります。腰から3寸鍼(9センチ)を使って、6センチ程度刺入すれば、この筋に到達します。簡単に書いていますが、ここに鍼ができる鍼灸師は、ほとんどいないといっても過言ではありません。


Aさんの慢性腰痛は30年と年季が入っています。しかし、初めて受けるはりきゅう治療の効果は、思っていた以上にみられました。3回目の治療前には、それまでの痛みがうそみたいに楽になったと笑顔がみられました。しかし、右の腰痛がもう少し残っているということ。やはり、大腰筋刺鍼が必要な状態です。Aさんも、説明に納得し、頑張って3回程大腰筋刺鍼を受けました。その後は、ほとんど腰痛も感じないほどになっています。治療は一旦終了で構わないほどの状態ですが、日々の介護を担うAさんは、月に2回の治療を継続しながら、介護や趣味を続けています。そして、腰痛を抱えている知人に鍼灸治療の効果を伝えてくれているのです。今までは、いつ痛みがやってくるのか不安を常に抱えて生活をしていたそうですが、鍼灸治療を受けて、初めてその恐怖や不安から解放されたとおっしゃっています。